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「2022-2023アストラ国際絵本原作コンテスト」入賞者発表

2022年11月にスタートしました「アストラ国際絵本原作コンテスト」には、83カ国から2,248作品のご応募をいただき、いずれも第1回を大きく上回る結果となりました。


参加者皆様の積極的なご応募、ありがとうございました。 皆様の愛情と童心が、このコンテストを温かく素晴らしいものにし、また皆様の想像力と創造力が絵本創作の活力を見せてくれました。


6ヶ月に及ぶ厳正な審査の結果、6つの言語からなる専門審査員により、8カ国11名の受賞者が選ばれました。


金賞(2名)
著者:ヨハンナ・クレメント(Johanna Klement)
題名:赤いカメレオン(Chamäleon-rot)
言語:ドイツ語
国名:ドイツ
審査員のコメント
絵本の永遠のテーマである「自分を知る」ことの斬新な探求と、魅力的な現実感が『赤いカメレオン』の特徴である。 作者は、恥ずかしがり屋の子どもとカメレオンの特徴を巧みに結びつけ、子どもの内面を映し出している。 カメレオンと多くのところが似ているこの子どもは、カメレオンの超能力である色を変えて、体を見えなくすることを最も渇望しているが、できない。もし、それができれば、多くの人に挨拶したり、交流したりする必要はなくなるのに! 一人称の語りによって、読者は内気な人が社交の場で直面する不安や困難をより深く体験することができる。前向きな結末は、この物語の重要なポイントを伝えている。私たちは自分の個性を大切にすべきであり、社会の期待に合わせて、常に自分を変えようとする必要はないのだ、と。
著者:蘭夢醒(兰梦醒)
題名:たとえば、今、こんなこと(有时,突然……)
言語:中国語
国名:中国
審査員のコメント
子ども向けに書かれた詩が、想像力に欠けていることなどないのだが、この『たとえば、今、こんなこと』は、一連の幻想的な情景を描いているだけでなく、世界を探検する好奇心に満ち、日常生活に対する創造に満ちた新たな解釈とさえいえる。 岩、雲、川、木、月、猫、カタツムリ、象、空気、時間、海といった自然の要素に、通常とは異なる性質や行動が与えられ、多重の比喩と意味を表現し、作者の生活に対する美しい姿勢を伝え、子ども心、ユーモア、些細なことに拘らないことを通じて、読者の笑いと共感を誘い、読者の探究心を促す。 当たり前の生活の中でも、無限の奇跡と驚きを見出すことができ、私たちが心さえ開けば、この世界を愛することができる。 この詩を読んだ人は、きっと気分も心も軽くなることだろう。
講談社賞
著者:ジェニー・ギヨーム(Jenny Guillaume)
題名:頭にのったタコ(Un poulpe sur la tête)
言語:フランス語
国名:フランス
講談社のコメント:
『頭にのったタコ』は、テキストだけで自然に絵が思い浮かんでくるという点で傑出していました。主人公の頭の上に棲みついてしまったタコ。主人公と生活していく中で、だんだん大きくなってしまったり、その色が変わったり。主人公もタコも友達も大人も、びっくりしながら、やがて受け入れて、変わっていく。これは不条理な現実や、異質な他者を受容し、学び・成長するという、まさに今、子どもに、そして大人にも必要とされる、普遍的なテーマの物語ということができるでしょう。ユーモラスでありながら、最後にはちょっぴり涙してしまうストーリーラインは、これに絵がついたら、どんなすてきな絵本になるだろうと、わくわくする作品でした。
栄誉賞(8名)
作者 作品名 言語
イザベル コリウ・マリシャロット
(Isabelle Collioud-Marichallot)
静けさのコレクション
(L'étonnante collection de silences)
フランス語 フランス
デイヴィッド・マクマリン
(David McMullin)
この本は……じゃない
(This Book is Not…)
英語 アメリカ
タカハシ ペチカ トトのみちくさ 日本語 日本
アンヘレス・ドゥリーニ
(Ángeles Durini)
どんなものでも
(Cualquier cosa)
スペイン語 アルゼンチン
雷婷 わたしの超ウルトラスーパー幼稚園
(我的超超超超级幼儿园)
中国語 中国
ハンナ・ブラウン
(Hannah Brown)
むかしむかしは……おとなもみんな赤ちゃんだった
(Once Upon a Time … All Grownups were Babies)
英語 イスラエル
パヤム・イブラヒミ
(Payam Ebrahimi)
アッグネス氏が卵を産んだ日
(The Day that Mr. Aggness Laid an Egg)
英語 イラン
グレンダ・アーマンド
(Glenda Armand)
ステラホントハニアの船旅
(The Voyage of Stellabornia)
英語 アメリカ
審査員からのメッセージ
Photo/永野雅子
(Masako Nagano)

荒井良二(日本)
絵本のテキストのコンペというかなりユニークな審査に立ち会える機会を与えていただいてとても感謝しています。しかも、世界規模の応募作品に出会えるのですから! こんなに嬉しいことはありません。一作品ごとに国名が記してあり、今、現在の色んな地域の皆さんの絵本へのまなざしや情熱を受け取ることができました。そして、作品を読み進めるうちにあることに気づいたんです、国や地域の違いは全く気にならないことを。絵本には文化の差異を小さくする「力」がある! と思ったんです。金賞になった『たとえば、今、こんなこと』を読んでいると、この作品はもちろん「今」にも通じるし、「これから」もずっと残っていく「おもしろさ」があり、「絵本の普遍」を感じさせる秀作でした。こういう嬉しいコンペに関わることができてぼくはとても幸福だったし、これから、もっともっと続いていってほしいと切に願います!

アージャ(阿甲,中国)
今回のノミネート作品は全体的にクオリティーが高く、どの作品もキラリと光るものがあり、読んでいて啓発されものが多かったので、審査員として優秀作品を選ぶのはそう簡単なことではありませんでした。 特に嬉しかったのは、国や地域、文化は違えど、潜められていた子ども時代の思い出や人間性を大切にする気持ちはとても似ていることでした。言葉の壁を越えて、物語を理解し、楽しむことはとても自然なことで、子ども心のあふれた奇想天外な物語にわくわくしたり、懐かしさを感じたりしました。 世界がまだ若かった頃、私たちはおそらく同じ家族であったに違いないと思いました。 また、物語によってはかなりホットなものもあり、同じテーマでそれぞれ独特な表現で創作された作品も多いなか、私はどちらかというと奇抜でユニークな作品に出会ったときのほうが無上の喜びを感じました。そういう意味でも、今回の審査員になったことは、とっても楽しい経験でした。

ジル・デイビス(Jill Davis、アメリカ)
アストラ国際絵本原作コンテストの審査員を務めることができ、大変光栄に思います。 応募作品を読むと、世界中の作家がどのように子どもたちに物語を伝えているのかが垣間見え、そこに、思いやり、感性、魔法や生き生きとした想像力がたくにみ組み合わされていることが見て取れました。私が好きな物語は、頭の中ではっきりと絵を浮かばせてくれる作品、微笑ましく、美しい比喩の言葉で語りかけてくれる作品です。『たとえば、今、こんなこと』のように。 また、『赤いカメレオン』のような、幼い子どもたちが何度も読んでとせがんでくる姿が目に浮かぶような物語も好きです。『頭にのったタコ』みたいに、ユニークで不条理でありながら説得力のあるお話は、特に好き。思わず爆笑しましたし、子どもたちは主人公が体験しているユーモアがきっと大好きになると思います。 応募してくださった皆さんに感謝を申し上げます。作品を共有するということは勇敢な行動です。 努力を続ければ、きっと自分が素晴らしい絵本作家への道を歩いていることに気づくと思います。

サビーネ・フックス(Sabine Fuchs、オーストリア)
優れた絵本は、絵だけでなく文章も優れていなければなりません。短い文章の場合、特に巧みな言葉の選択、ユーモラスな言葉遣い、そして何よりも個性的で、ビジュアルな空間表現が求められます。また、作者には、共感を呼ぶ語り口や、何度も繰り返されてきたテーマを新たな視点や主人公を変えて語る能力も求められます。今年のアストラ国際絵本原作コンテストの応募作品は、日常生活から幼稚園生活、子どもの友情から哲学的な問題まで、幅広いテーマを扱っており、古典的なストーリーテリングから韻を踏んだ歌、自由な連想まで、さまざまなスタイルで書かれています。これらは受賞作品にも存分に見ることができます。深く考えさせる思考実験(『たとえば、今、こんなこと』)、内面的な成長についての物語(『赤いカメレオン』)、動物たちとの奇妙な友情物語(『頭にのったタコ』)などなどです。これらの作品のスタイルはすべて、アーティストに充分な空間を与え、絵を通じて個性的にテキストを解釈することができます。

ソフィー・ヴァン・デル・リンデン(Sophie Van der Linden、フランス)
絵本は絵、レイアウト、判型などで構成され、これらを切り離して文字のみを読み、判断することは容易なことではありません。 応募してくれた文章、特に受賞作品には絵本の文章の基本的な特徴である「語り口」「リズム」「シンプルさ」が表れており、この「簡潔さ」が絵と組み合わさることで、その魅力が存分に発揮されます。

ドロレス・プラデス(Dolores Prades、ブラジル)
アストラ国際絵本原作コンテストは、絵が主流となっている絵本の分野において、文学的な文章の重要性を再認識することを目的としています。審査員を何度か務めた経験から、言葉の正確さと表現がますます重要視されるようになってきていることを感じています。過剰に表現をしないという前提のもと、詩的で開放的な言葉が絵に空間を残すということを簡単なことだと多くの人は考えがちですが、実は絵本創作の最大の挑戦であります。このコンテストの国際性は、創作テーマや物語スタイルの豊かさと多様性を示しており、称賛に値します。